屠殺~Prison slave~

屠殺の小説を書きます

2 医者もどきの名医

 バートリ・エルシェーベトというのは、ハンガリー王国の貴族にして、史上名高い連続殺人鬼。
 なのだが__どうして彼女は、血で血を洗うような人になってしまったのだろうか? 彼女が過ごしてきた環境に、悪魔崇拝者と、色情狂がいたからなのだろうか。いや、これはただの噂でしかならない_____。実際、環境になんの異常も無く、もしかしたら彼女だけがくるっていたのかもしれない。まぁ、近視結婚をなんどもなんどもしていたのが原因だとは思うけど。
「よっ、貴利名」
 呼ばれる声。それは、かつての幼馴染の声ではない。それはわかっているし、理解している。だけど、自分を呼ぶ声がすると、どうしても、悔やんでも悔やみきれないという後悔が襲ってくる。
「また勉強か? いつか頭の中、石みたいになるぞ?」
「まぁ、勉強は好きだからな。それよりお前も、遊んでて大丈夫なのか? そろそろ講義だろ? それに、必修科目も大丈夫なのか?」
 読んでいた本を閉じて、新しく出来た友人と向き合う。
 俺は大学に通っていた。それも、この大学から出ている医者も多い、有名大学だ。なんで俺はそこにいけたのか___。それは、あまり思い出したくはない。
 ___まぁ、目の前の友人にも話したことだ。それを聞いても友達で居てくれるんだから、本当に嬉しい。
 ……話を戻そう。俺は、慰謝料でこの大学の学費を一括で払って、通っている。生々しい話になることは分かっている。でも、それでも、あの人たちはおかしかったんだ。
 あの人たち、かつての故郷、伊那国島の人達は、おかしかった。
 あのときの俺はバカだった。なんで気づかなかったんだ。
 あの人たち、即身仏の他にも、今じゃ法律に触れてしまうことを、さも同然のように行っていたんだ。それが、あの島に居た人が、証拠を持って警察に相談したことが、全ての始まりだった。
 まずは大人たちの逮捕。
 そして、俺ら子供たちを騙していた、もしくは被害に遭ったとして、多額の慰謝料が支払われた。それも、大人たちの家にあった家宝や大判小判を売って、口座に振り込んでもらった。その額は、俺が今通っている大学に普通に通えるほどの大金だった。それを使って、俺はこの大学に通っている。
 そして、島は閉鎖された。もう立ち入ることのないように。そして、二度と即身仏なんてものが行われないように____。
「貴利名?」
 それは、FFIが終わってすぐのことだった。
 突然多額のお金をもらって、剛陣先輩たちは、慌てふためていた。でも、俺はこのお金の使い道をすでに決めていた。
「きりなー?」
 学費文のお金を残して、あとは高校、そしてオンライン講座のお金に回した。家は、野坂が居た施設があったから、そこで勉強の毎日だった。
「___貴利名!!」
「えっ」
「どうしたんだ貴利名。またアレか?」
 いつの間にか、俺はまた思考に浸っていたようだ。自慢じゃないが、俺は勉強に勉強を重ねた結果、聴覚や視覚、全ての感覚を無視して思考が出来るようになっていた。こういうところがあるから、周りからは「変わっている」と思われている。
「あぁ、ごめん」
「まぁ俺は慣れてるからいいけどな。ところで貴利名、ご飯食いにいかね? 今日はあの大人気ラーメン、予約しておいたぜ!」
「本当か!?」
「あぁ! 行こうぜ!」
 ちょうど昼休憩だということも忘れていたようだ。俺は友人に連れられて、食堂に向かった。

 

「ごちそうさま。ありがとな、奢ってもらって」
「いいってことよ! だって俺たち親友だろ?」
 大人気のラーメンを食べて、俺たちは満足気に寮への足を進める。だが、俺はまだ寮に帰るつもりは無い__。
「……そうだ。俺ちょっと学校に用があるから、先に帰っててくれないか?」
「ん? いいけど、忘れ物か?」
「そんな感じだ、じゃあな!」
 寮への道を引き返して、俺は学校へと向かう。学校といっても、サークル棟だ。音楽に芸術、テニスに経済と、色んなものが出揃っている。__が、勉強漬けの毎日だからなのか、サークルらしいことは出来ない。そのため、サークルという名の同好会とかしている。
 まぁ、その方が集中できるが。
『精神医学』と書かれたドアを開けると、いつもの見慣れた内装が見える。大量の本に、一つだけの質素な机にと、どう考えても一人しか入れないような狭い部屋。もちろん、サークルとして活動はしている。だが、サークル仲間がいないのだ。
「さて、と」
 俺は気持ちを整えるため、使い古された折りたたみ椅子にかけられた白い白衣を着て、机に向かい、椅子に座る。
 机の上に置かれた本棚の本との間から、ノートパソコンを取り出すと、俺はそれを開く。そのパソコンの中には、稲森明日人、灰崎凌兵、野坂悠馬、一星光のカルテがあった。カルテといっても、医師によって書かれていない、所謂非公式のカルテだ。ご覧の通り、メモ帳で簡単に記載したようなカルテだ。効率的ではないし、実用的でもない。だが、俺にはそれで十分だった。
「今週で、あの四人に関するニュースといえば、伊那国島が解体されて、国の土地になるということだな。あの四人の中では、明日人がそれに当てはまる。そして、伊那国島に居たとされる元島民に聞いたところによると、明日人は……」
 独り言をブツブツ呟きながら、俺はノートパソコンのキーボードをカタカタと打つ。多分タイピングの早さだけは、この大学一だと自負している。
 タイピングが終わると、俺はそのメモを保存する。もちろんタイトルをつけて。
 タイトルは、『偶像神』。