屠殺~Prison slave~

屠殺の小説を書きます

誰かさんのカルテ 1無限の死

 患者名
 稲森明日人
 灰崎凌兵
 野坂悠馬
 一星光

 

  彼らは、日本の病院から遠く離れた、富士の樹海の奥地に建てられた精神病院、「ロボトニー」に収容してください。また、どの人間でも、精神病院の近くを通ることは許されません。その為、病院周辺には、警備員が警備を行っております。もし観光客、遭難者がこの病院の存在に気づいたときは、カバーストーリーを提示して、情報の秘匿を行ってください。また、当精神病院には、万が一彼らが病室から脱走した時のために、国家から派遣された軍隊が保護を行います。
 また、彼らの世話を担当するのは、医療資格、看護師国家試験を合格したという証明を持つ犯罪囚、死刑囚に担当させてください。


 説明
 彼らは、オリオン財団の作り上げた薬物、『ルナティックキング』の接種によって発症した、伝達性海綿状脳症患者の四人組を表します。彼らは元中学サッカー日本代表のイナズマジャパンの選手で、精神安定のために例の薬物を接種したことが伺えます。
 彼らは、それぞれ狂笑・呻吟・号哭・哀哭を繰り返し、不規則に院内を脱走し、暴れ出すという事例が多数を占めます。また、当医院に入院する前も、このような事例がイナズマジャパンの宿所で大量発生したそうです。
 現在、この症状の緩和、治療を行うため、様々な手術を施していますが、今だに治る気配はありません。

 

 補足
 また、イナズマジャパンの元選手も現時点で彼らと似たようなことを起こしており、入院させた方がいいのではないだろうかという議論が今も続いております。

 

 伝達性海綿状脳症:脳の組織にスポンジ(海綿)状の変化をひきおこす神経性の病気で、その原因は未だ十分に解明されていない伝達因子と考えられています。

 

 ***

 

 かつて、自分たちがここで走り込みをしていたかの場所、河川敷には彼岸花が咲いていた。血のように美しく、炎のように穢らわしく、そこに咲いていた。まさにその例え通り、彼岸花には毒がある。おそらく、致死量ではなくとも、体内を狂わせることなど可能だ。だが、むしろ長く苦しめるよりも、一気に殺して欲しいくらいだ。その方が、誰もこんなに苦しまなくて済む。
「もう、来たくはなかったんだけどな」
 俺は、自分が持っている花束を見て、鼻で笑った。俺は今、サッカーをやめているはずなのに、なんで、この足はあそこに向かっているのだろうか。あそこに行ったって、なんの得にもならない。せいぜい傷つくだけだ。
 そして今、俺がどんな気持ちで、あそこに向かっていることなんて、誰も知る由はないだろう。そう、家畜のように、みんなみんな、あいつらのことなんて知らない。そう、知らない方が、幸せだ。
「_お前も、来ていたんだな」
「西蔭…あぁそうだよ。俺は、もう来たくなかった。忘れてしまいたかったよ。あんなところ、来ても何もないのにさ」
 俺は三又に分かれた道の交差点で、西蔭と会った。十年経っても、昔の頃のままで、どこか懐かしかった。
「俺も、来たくはなかった。だが、どうしても、あの人に会いたいんだ」
「野坂、か」
「氷浦、もうあの人を野坂と呼ぶな」
 西蔭が会いたがっている相手の名は知っている。だけど、それを言うと、西蔭が釘をさした。それを聞いて、俺はわかったよ。とだけ口にした。もう、西蔭はあの人(野坂)のことを何も思っていないようだ。だが、それでも会いたいと思えるのだから、凄い忠誠心を持っていたんだなと感心する。
「…んでも、西蔭はの…あの人に会いたいんだな」
「あぁ、忘れたくとも忘れられないんだ。心が、それではダメだと」
 それは、俺も同じだ。あの幼馴染のことなど、忘れるつもりだった。
 でも、忘れられないんだ。
 大事に育てた家畜(人間)だって、いつかは屠られて、忘れられてしまうのに。

 

 東京の都会から遠く離れた森の中に、彼らはいた。世界中から隔離された、その場所に。その場所は、通常の精神病院とは違い、四人のために作られた病院だ。本来は普通の病院だったのだが、他の患者との接触を避けるため、街にある病院とは違って森の中にあるのだ。その理由は、俺たちが一番知っている。
 俺たちは面会をしようと、受付で話をする。ここで働いている従業員は、大体が何らかの罪を犯して、死刑になった人達だけだ。あるいは、モグリの医者か。すると、廊下で人影が見えた。青く伸びた髪が見えたから、おそらくあいつ(一星)だろう。今日も、大好きな兄を探している。兄とサッカーをするために。
「………面会に来る者は、俺たち以外に居なくなっちゃったな」
「あぁ」
 受付の看護師に言われて、俺たちは鍵の掛かっている個室で、あいつが再び保護されるのを待つ。その間、俺と西蔭は昔を思い出していた。昔は、二人だけではなかったのだ。それはもちろん、イナズマジャパン全員でお見舞いに行ったくらいだ。だが、それも今や二人。あと、二十三人居たはずなのに。
「皆、怖いんだよな。あいつらに会うのが」
「まぁ、あんなに狂っていたらな。会いたくなくなるだろう」
 そう西蔭は、古いスマホにあるメッセージアプリに残された、あいつの名前のメッセージ欄を見つめていた。俺も、気まずそうにかつてのあいつと撮った写真を立ち上げる。
 そこには、かつて笑いあった俺と、四人の姿があった。

 

 


 あいつらは、危険で、化け物で、そして、何度も死を繰り返している。
 今日も、あいつは笑っている。
 昨日も、あいつは唸っている。
 一昨日も、あいつは叫んで、
 昨年も、あいつは泣いている。
 もう何年目だ? あいつらはいつになったら元に戻ってくれる?
 それに、俺たちは、いつまでこんなことをすればいいんだ?