屠殺~Prison slave~

屠殺の小説を書きます

壱 そんなこと、俺は存じてない.

 屠。それを、俺はスマホの動画アプリで知る。なぜ、知ったのか。それは…あまり言いたくはないけど、みんなの言うムフフが気になって、調べてみたんだ。でも、そのムフフに関連する動画は見つからなくて、諦めかけていた。するとそこに、検索結果の動画の下らへんにある動画に、豚や牛などの動物のサムネの動画を見つけ、タップする。なんと、それは俺が想像していたものとは遠く離れていて、家畜としての豚と牛がその肉を取られている動画だった。ここで初めて、俺は動画のタイトルに書いてあった、『屠り』の文字の意味を知る。
「…久しぶりに気分悪くなったな」
 気持ち悪さと怖さに、こんなの見なくていいと脳が拒絶していて、頭が痛くなる。こんなに気分が悪くなったのは、伊那国島で重い風邪にかかった時以来だ。まぁ、あれは身体的だけど、こっちは精神にダメージが入った。
 俺は部屋を出て、ロビーにあるドリンクバーに行く。紙コップを取りだし、ジュースを決めて紙コップにジュースを注ぐ。
「ふぅ…あまり折谷さんから飲まないようにって言われているけど、コーラはやっぱり美味しいな」
 俺は紙コップに入ったコーラを飲み干す。美味しい。やっぱり、炭酸飲料は美味しい。最初は口の中で炭酸がはじけて嫌な感じだったけど、慣れてしまえば案外いける。あ、もちろん俺の故郷の伊那国島のラムネも美味しい。だけど、都会は凄いな。これだけ色んな人が好む飲み物を作れちゃうんだから。
「…おっと、休憩時間はもう終わりだな…」
 左手首に付けられたイレブンバンドのタイマーのアラームで、俺は休憩時間が終わったことを知る。俺は、何かの時間が終わったことを確かめる為に、こうしてイレブンバンドに、タイマーをしているのだ。これで昔、休憩時間が終わったことに気づかなくて、すでにグランドに居た鬼道さんに怒られたことがある。今は鬼道さんは居ないけど、鬼道さんに言われたとおり、タイマーを付けて休憩時間が終わったことを確かめている。まだ、コーラ飲みたいけど。
 この宿所には、色々な設備が整っている。俺が居たドリンクバーも、トレーニングルームも、その他備品も、色々と揃っている。部屋も、日本にいた時は二人で一つの部屋だったけど、今は一人一人の部屋になっている。(西蔭は野坂と同室を希望したけど)さすが、このチームが初出場にして本線にまで上り詰めたかいはあるな。
「やぁ、貴利名」
「あ、折谷さん。どうしたんですか?」
 グランドに入ると、早速折谷さんから声をかけられた。もしかして、コーラを飲んだことを怒っているのかなと、俺は怒られる覚悟をする。イレブンバンドには、色んなことを計算できる機能がある。折谷さんはいつも優しいけど、選手の健康状態に関しては厳しい。さっきのコーラだって、どれだけカロリーがあるか…。
「…あれ。もしかして貴利名。自分がコーラを黙って飲んだことに、僕が怒ると思っているのかい?」
「え、違うんですか?」
「うん。それに関しては何も言わないよ。ただ、運動してその接種したカロリーをどうやって消費していくかが重要だ。いきなり摂取したカロリーの分だけ運動して減らしても、次の日にはコンディションを崩してしまう。だから、少しずつ、カロリーを消費していかないとね」
「…すみませんでした」
「謝ってほしいわけじゃない。それよりも、最近明日人、凌兵、悠馬、光の飲み物の接種の間隔が極端に短いんだ。あ、イレブンバンドでそういうことはわかるからね。だからというわけじゃないけど、四人の共通の知り合いでもある貴利名に頼みごとをしたいんだよ」
 折谷さんは、俺が勝手にコーラを飲んだことを怒ると思ったけど、なんと折谷さんは俺に頼みごとをしてきた。明日人たちが、最近飲み物を飲む回数が多いって言っていたような。でも、それは運動しているなら、なおさら水分補給のために飲まないと…いや、練習中に一気に飲み物を飲み過ぎちゃだめだって折谷さんに言われているし、これは放って置くわけにはいかないな。
「なるほど、わかりました。少し注意しにいきますね」
「あぁ、行ってらっしゃい」
 監督からはこちらから伝えておくね。と折谷さんから言われながら、俺は四人の居るところを探した。明日人はグランドで練習しているだろう。それじゃなかったら、トレーニングルームだろうか。
「あ、明日人―!」
 よかった。案外簡単に明日人は見つかった。どうやらグランドで灰崎と話していたみたいだ。
「どうしたの? 氷浦」
「実は、折谷さんから、明日人と灰崎の飲み物を飲む頻度が多いから、注意しておくようにって言われたんだ」
「まじかよ…飲み物を飲む回数まで制限されんのかよ…」
「あんまり飲みすぎると良くないってさ」
 簡単に理由を言って、灰崎を落ち着かせる。
「あ、そういうこと? わかった、飲むの控えておくね」
 この調子だと、明日人から灰崎にと情報が渡るだろう。よし、あとは野坂と一星だ。でもなんだ? 何を飲んでいたんだ?
「あ、そういえば何を飲んでいたんだ?」
「…普通の水だよ?」
 明日人は、なんだか迷ったように黙ったあと、俺の質問に答えた。
「そうなんだ…じゃあ、俺はあと野坂と一星に伝えておくからな!」
 急いでいるわけじゃないけど、俺は二人の元へと走る。
「…だけど、本当にただの水だったのか? 普通ならスポーツ飲料だとは思うけどな…」
 どうしても気になってしまう。でも、関係ないと切り捨て、俺は野坂の元に向かう。
「あ、西蔭。野坂と一星知らないか?」
 大きい体格の西蔭が見え、俺は二人とは仲がいい西蔭に、二人がどこにいるか聞くことにした。
「野坂さんと一星なら…」
「やあ西蔭、氷浦くん」
 わっ! 野坂は西蔭の後ろからぬるっと現れて、俺は思わず右足が後ろに下がる。
「野坂さん…」
「ところで、僕になんの用かな。氷浦くん」
 なんだ…気づいていたのか…本当に勘が鋭いなぁ…まぁ、ここで考えても仕方ないから、俺は野坂に要件を伝える。
「……なるほど、飲み物を飲む回数が多いということなんだ。わかった。一星くんにも伝えておくね。西蔭、行くよ」
 何やら急いでいるかのように、野坂は西蔭を連れて部屋の方へ行く。
「…よし、四人に伝えたことを折谷さんに伝えに行こう」
 もうすぐスペイン戦。俺も力をつけないとな。