屠殺~Prison slave~

屠殺の小説を書きます

参 散滅射

散滅射フィクサーラストワード)…懐かしいねぇ』
「散滅射って?」
 俺は午前二時にばあちゃんとテレビ電話をしていた。だって、時差的にこっちでは午前二時だけど、日本では午前八時だからさ。俺はばあちゃんに、色んなことを話した。世界に行ったこと、練習は辛いけど楽しいこと、ロシアでの名所とか、いっぱい話した。すると、ばあちゃんは散滅射っていう言葉を言ってきたんだ。なんだ? それは。
『私が若い頃からやっているバンドの名称だよ。確か、実話を元にした曲を作るっているのがポリシーでね。私がまだ若かった頃は、戦争の曲とかいっぱい歌っていたもんだ』
 戦争、第二次世界大戦の事なのかな。確か、ばあちゃんが生まれた時は、贅沢ができない戦時中で、辛かったことがいっぱいあったそうだ。ばあちゃん、辛い戦争のことを思い出されて、辛かっただろうに。
『でもね、きーちゃんが心配しているようなことはなかったさ。散滅射の歌を聞いていると、なぜだか心が清々しくなれるんだよ。逆に、元気になったよ。なんだか、諦めるなって言われてるみたいでね』
 そうなんだ…凄いな。歌の力は。
『そうだ、ちょうど散滅射の曲持ってるから、きーちゃんに聞かせてあげるよ』
「ううん、散滅射のことはばあちゃんから知ったし、今じゃそういうのネットで調べられるからさ」
『今は凄いねぇ。昔はそんなのなかったさ』
「うん、おやすみ。ばあちゃん」
『おやすみはそっちだよ。じゃあまたね』
 ばあちゃんにツッコまれながらテレビ電話を切ると、俺はすぐに散滅射のことを調べた。散滅射。検索。するとそこに出てきたのは、今まで散滅射が出してきたであろうアルバムの画像が並んで、そして公式サイトが出てきた。ばあちゃんの言っていた散滅射のメンバーはよく知らないけど、今のメンバーは日本の大学生らしい男性四人と、ボーカルの女の子になっていた。特に女の子はかなり人気で、可愛らしい声はもちろん、大人な声も男性の声もできるようだった。
 ……どうやら、ここの近くでローカルライブが開かれるみたいだ。少し聞いてこようかな。
 理由もないけど、明日はオフだ。早めに寝て、明日のライブに備えよう。



 翌日、俺はそのローカルライブに来ていた。宿所は今、円堂さんたち三年生の進路希望調査が行われていて、俺たちのような一年二年はオフになっていた。それに合わせるように、なぜか今日にライブをすることが決められていた。
 俺はその質素な観客席の一番前に座らせてもらっていた。日本代表のイナズマジャパンだからなのかは知らないけど…。
『みなさんこんにちはー! 散滅射のボーカル、ディケイドです!』
 すると、ジャジャーンという音と共に、女の子がやってきた。女の子は金髪の長い髪で、白と黒のドレスを身にまとっていた。その後に、男性四人がやってきた。
『ケイオスだよ!』
『フューリーだ』
タイラントだよ。よろしくね』
『ネメシスです!』
 後から来た男性四人は、それぞれ芸名なのか偽名を名乗っていた。その間、俺はあの四人をまるで、俺の知っている四人のような雰囲気を出していることに驚きを見せていた。
『今回は、このFFIが開催される、ロシアでのライブとなります! 皆さん、楽しんでいってくださいね!』
 それぞれがギター、ベース、ドラム、キーボードの準備をしている中、女の子はマイクを片手に持って、挨拶をしていた。
「それでは聞いて下さい。『アビス・レヴェナント』」
 女の子は、曲の題名を言って、ドラムの合図のあとに歌い出す。俺の頭の中で流れるあの曲では無かったにしろ、この曲は聞いたことがあった。とある亡霊が、桜の木の下に眠るというストーリーの歌。
『その中に、僕はいるの? 君の中に僕はいますか?』
 女の子は歌う。綺麗なドレスを着て、踊る。その声に、俺は魅了されていった。何も考えられなかった。これからのこととか、明日人たちのこととか、イナズマジャパンの今後のこととか。
 そして、順調にライブは進んで行った。とある巫女の話とか、二人の恋物語とか、心のない姉妹とかの、どこかで聞いたことがあるような歌を歌って行った。やっぱり、ばあちゃんの言っていたとおり、実話を元にしているんだ。
「ありがとうございました!」
『Ангкор! Ангкор!』
 いつの間にかライブは終わっていて、観客は、アンコール、アンコールと言いたそうに、声を上げている。さっきの曲たちだけでも、満足したと俺は思うのに、なぜだろうか。もちろん、散滅射が好きだからというのもあるだろうが、俺にとっては散滅射より、その『歌』に耳が支配されていた。
『アンコール、ということですね。では、最後の曲です! チェックメイトのファイブクレージー
 すると、観客たちは歓声を上げ、ペンライトを振る。
 あの曲だ! と、俺は思わず立ち上がった。既に他の観客は盛り上がりすぎて立ち上がっていたため、あまり目立たなかった。そう、あの曲が、歌われるのだ。
『らららららら~』
 前奏のららら。
『これから毎日が楽しくなるー』
 楽しそうな歌詞。
『ごめんね、僕らはもう』
 途中から、登場人物が狂っていく歌詞になっていく。
 そう、俺が聞いたのはあの曲だ。
 怖いけど、美しく。
 美しいけど、狂っている。
 それが、あの女の子から溢れていた。



 ライブは順調に終わり、スタッフが後片付けに入っていた。その頃、向こうでは五人の握手会がとりおこなわれていた。握手と同時に、聞き込みもしているらしい。実話を元にしているんだから、当然だし、かなり時間がかかるのも知っている。でも、俺は握手とか、実話を話すために来たんじゃない。散滅射のことを知りたかっためだ。俺も帰ろうとすると、声をかけられた。
「ねね、君って氷浦貴利名だよね」
 振り向くと、そこには歌を歌っていた女の子が居た。他の大学生たちはどうしたのだろうか。もしかして、勝手に抜け出してきたのだろうか。
「え、そうだけど…君は?」
 散滅射のことはしっていたけど、それぞれの名前とかは知らなかった。
「私はディケイド! なんてね、ほんとの名前は天海虹花! ディケイドはライブの中での名前!」
「そうなんだ…」
「四人はね、まだ握手とか、プレゼントを貰うのには早いって私には先に帰るようにって言われてるんだ。でも、私だって聞き込みもしたいし、握手もしたい」
「そこで、俺が適任だと思ったわけか」
「そそ!」
 すると女の子、いや虹花は、強引に俺と握手をした。
「よし、握手も終わったし、聞き込みさせて!」
「え? 俺そんなにいい話持ってきてないけど」
「いいの! 私だってチームに貢献したいの!」
 虹花は、あの時ライブで見せた可愛らしい雰囲気とは打って変わって、強引な女の子だった。でも、俺そんなに面白い話は持ってきてないぞ? ……まぁ、日本代表としてサッカーをしている。みたいな話でいいか。
「…じゃあ、俺は日本代表で」
「あー違う違う。あの四人のことを聞きたいの」
「えっ」
 なんと、虹花は、俺から聞き込みをしたいわけじゃなかった。いや別に、ショックだったわけじゃないけど、ちょっと驚いた。
「あの四人って…」
「ほら、つんつん頭と、灰色ロン毛で、皇帝様で、流れ星の子から話を聞きたいの!」
「…もしかして、明日人と灰崎、野坂と一星のことか?」
「そそ!」
 さも知っているかのように、虹花は笑う。
 あの四人。知っていたなら、なんで名前を呼ばなかったんだ?
「…そうだな。明日人はあぁ見えて結構…」
 俺は、虹花に四人のことを話した。虹花曰く、あの四人は見所があるらしい。どんな見所があるんだ? それを聞こうとしたら、それは近々わかると言われた。
 なんか怪しいな…
 不安な気持ちを残しながら、俺は宿所に帰った。虹花から貰った、散滅射のチケットを手にしながら。